吹奏楽部・楽団の楽器を盗難から守る管理術

相談者

顧問を引き継いだばかりなんですが、楽器の管理がどうなっているのか把握できていなくて。何から手をつければいいでしょう。

案内役

まずは一覧づくりからです。楽器名とメーカー、型番、シリアル番号、写真。この5つがそろっていれば、万一のときに動けます。全部を一度にやろうとせず、パートごとに分担するのがコツですよ。

結論からお伝えします。団体の楽器を守るうえでいちばん効くのは、備品台帳にシリアル番号と写真を残しておくことです。鍵や防犯設備よりも先に、これをやってください。費用はかかりませんし、担当が代わっても引き継げます。

学校や楽団の楽器は、個人の楽器とは事情が違います。使う人が多く、出入りも多く、そして管理する人が数年で入れ替わります。この3つが重なると、情報が残らないまま時間だけが過ぎていきます。

この記事では、団体で楽器を管理する立場の方に向けて、何を記録し、どう保管し、被害にあったときにどう動くかをまとめました。顧問の先生、部長やパートリーダー、楽団の運営に関わる方にお読みいただければと思います。

団体の楽器が狙われやすい理由

ホルンの写真

対策を考える前に、なぜ狙われるのかを整理しておきます。

まず、出入りする人が多いことです。部員、保護者、卒業生、業者、他校の生徒。合同練習や演奏会があれば、さらに増えます。誰がいてもおかしくない状況では、不審な人物がいても気づきにくくなります。

次に、管理者が入れ替わることです。顧問の先生は数年で異動しますし、生徒は3年で卒業します。前任者が把握していた情報が、引き継ぎの過程で失われていきます。「シリアル番号なんて聞いたこともない」という状態が、こうして生まれます。

そして、本数が多いことです。1本なくなっても、しばらく気づかないことがあります。気づいたときには、いつからなくなっていたのか分からない。防犯カメラの記録も上書きされている。こうなると打つ手が限られます。

裏を返せば、記録さえ残しておけば、この不利はかなり埋められるということです。

備品台帳に何を書いておくか

台帳といっても難しく考える必要はありません。表計算ソフトで十分です。次の項目があれば、万一のときに使えます。

項目書いておくこと
楽器の種類トランペット、アルトサックスなど
メーカー・型番刻印のとおりに正確に
シリアル番号最重要。中古店や警察が照合に使う
購入時期・購入先所有を示す資料の手がかりになる
写真全体・刻印部分・傷の位置
個体の特徴傷やへこみの位置、部品の交換歴
ケースの特徴色、ステッカー、ネームタグ

このうち、シリアル番号と写真が特に大切です。この2つがあれば、見つかったときに「これはうちの楽器です」と示せます。逆にこれがないと、目の前に並んでいても主張できません。

写真はスマートフォンで構いません。クラウドに保存しておけば、担当が代わってもデータが残ります。学校の共有フォルダに置く場合は、卒業や異動でアクセスできなくなる可能性がないか確認しておいてください。

一度に全部やろうとしないでください

30本も40本もある楽器を、休日にまとめて記録しようとすると、まず挫折します。

パートごとに担当を決めて、自分たちの楽器を記録してもらう形にすると進みます。1人あたり数本ですから、練習前の10分で終わります。定期演奏会の前や、学期の変わり目など、区切りのタイミングで取り組むと習慣になります。

保管場所を見直す

トロンボーンの写真

記録ができたら、次は保管です。完璧を目指すより、できるところから見直してください。

鍵の管理を確認する

部室や楽器庫に鍵がかかるとしても、合鍵が何本あって誰が持っているかを把握できているでしょうか。長く使われている部屋ほど、鍵の所在が曖昧になっています。

一度、鍵の本数と所持者を確認してみてください。行方の分からない鍵があるなら、交換を検討する価値があります。

見える場所に置かない

廊下から中が見える部屋に楽器が並んでいると、それだけで狙われる理由になります。窓にカーテンをかける、棚の位置を変える、扉のガラス部分に目隠しをする。こうした小さな工夫でも効果があります。

高価な楽器は別に管理する

すべてを厳重に管理するのは現実的ではありません。ですから、金額の張る楽器だけでも別扱いにしてください。鍵のかかるロッカーに入れる、職員室で預かる、といった方法があります。

どれが高価なのか把握できていない場合は、購入時の記録を確認するか、楽器店に相談してみてください。

相談者

持ち出しの管理まではさすがに手が回らなくて。

案内役

厳密にやろうとすると続きませんから、ノートに書くだけで十分ですよ。持ち帰るときだけ記入する、くらいの緩さで始めてみてください。

持ち出しのルールをつくる

誰がいつ持ち出したかが分かると、なくなったときに状況を絞り込めます。ただし、厳密な管理を求めると誰も守らなくなります。続く形にすることが大切です。

おすすめは、ノートを一冊置いて、持ち帰るときだけ名前と日付を書く方式です。校内で使うぶんには記入不要にすれば、負担はほとんどありません。それでも、いざというときに「最後に持ち出したのは誰か」が分かります。

あわせて、持ち帰った楽器を車内に置いたままにしないことも伝えておいてください。短時間でも狙われます。これは生徒さんにも保護者の方にも共有しておきたい点です。

長期休暇の前に点検する

オーボエの写真

人がいない期間が続くと、被害に気づくのが遅れます。夏休みや冬休みの前に、まとめて確認する機会をつくってください。

見るのは3点です。台帳の楽器がすべてそろっているか。保管場所が確実に施錠されるか。持ち帰る楽器はどれで、誰が持っているか。この確認を年中行事にしておくと、抜けが起きにくくなります。

点検のついでに、台帳の情報を更新するとよいでしょう。新しく購入した楽器が抜けていたり、修理で部品が変わっていたりすることがあります。

休み明けに確認するのでは遅い、という点も申し添えておきます。休みに入る前の状態を記録しておくからこそ、何がなくなったのかが分かるのです。

引き継ぎで情報が消えないようにする

団体の管理でいちばん難しいのが、この引き継ぎです。せっかく台帳をつくっても、次の代に伝わらなければ意味がありません。

まず、保存場所を1か所に決めてください。前任者のパソコンの中にしかない、前の部長のスマートフォンにしかない、という状態が最も危険です。クラウド上の共有フォルダに置き、複数の人がアクセスできるようにしておきます。

次に、アクセス権を確認してください。卒業や異動でアカウントが使えなくなると、そこにあるデータごと見られなくなります。学校のアカウントで作ったフォルダは、卒業時に消えることがありますので注意が必要です。

そして、引き継ぎの資料に台帳の場所を書いておいてください。「楽器の台帳はここにあります」の一行があるだけで、次の代が迷わずに済みます。顧問の先生が代わるときも同じです。

紙の台帳を併用するのも有効です。データが失われても、部室の棚に一冊あれば復元できます。手間はかかりますが、年に一度印刷しておくだけでも保険になります。

演奏会や遠征のときの注意

チューバの写真

普段と違う場所へ楽器を運ぶときは、リスクが上がります。人の出入りが多く、慣れない環境で、しかも全員が本番前で慌ただしい。条件がそろってしまいます。

まず、置き場所を事前に決めておいてください。控室のどこに置くのか、舞台袖はどうするのか。当日その場で決めると、ばらばらの場所に置かれて把握できなくなります。

次に、見張り役を決めておくこと。全員が舞台に出る場面では、控室が無人になります。楽器を置いたまま全員が離れる時間帯がないか、あらかじめ確認しておいてください。

そして、出発前と帰着後の本数確認です。トラックや車に積み込むときに数えておけば、どこでなくなったのかが絞り込めます。会場を出る前に気づけば、その場で探せます。

合宿も同様です。宿泊先の部屋に置きっぱなしにする時間が長くなりますので、施錠できる場所を確保できるか、事前に確認しておくとよいでしょう。

被害にあったときは、誰が動くのか

ドラムセットの写真

ここは事前に決めておいてください。いざというとき、誰が何をするかが曖昧だと、対応が遅れます。

まず、所有者は学校または楽団です。ですから警察への届出も、原則として団体の側が行います。生徒さんが個人で動くのではなく、顧問の先生や責任者に報告してもらう流れにしておいてください。

報告を受けたら、まず状況を記録します。最後に確認したのはいつか、どこに保管されていたか、気づいたのはいつか。記憶が新しいうちにメモしてください。

そのうえで警察へ届け出ます。盗難と考えられるなら被害届、置き忘れの可能性が高いなら遺失届です。判断がつかない場合は、そのまま窓口で説明すれば整理してもらえます。このとき台帳のシリアル番号が効いてきます。

あわせて、団体で加入している保険を確認してください。学校であれば教育委員会や事務室が把握していることがあります。補償の有無や条件は契約によって異なりますので、加入先へご確認ください。届出の受理番号や控えを求められることがありますので、案内があれば控えておいてください。

また、防犯カメラの記録は数日から数週間で上書きされます。校内に設置されている場合は、早めに管理部署へ相談してください。

個人の楽器との線引きも決めておく

意外と揉めやすいのが、部員の私物を部室に置いている場合です。

私物がなくなった場合、届け出るのは本人または保護者です。団体の備品とは扱いが変わります。また、団体の保険では補償されないことがほとんどです。

ですから、私物を保管する場合のルールをあらかじめ決めておいてください。置いてよいのか、置くなら自己責任なのか、鍵付きロッカーを用意するのか。トラブルが起きてから決めるのでは遅いです。

そして、私物であってもシリアル番号と写真は控えておくよう、部員の皆さんに伝えてください。備品の記録をつくるときに、私物も一緒にやってしまうのが効率的です。

もし被害にあってしまったら

届出を済ませたら、情報を広げてください。近隣の楽器店やリペアショップに、シリアル番号と特徴を伝えておくと、持ち込まれたときに気づいてもらえる可能性があります。他校や近隣の楽団に共有しておくのも有効です。

当センターでは、盗難や紛失にあった楽器の情報を無料で掲載しています。学校や楽団の備品も掲載できます。特徴やシリアル番号を公開することで、見かけた方から情報が届く仕組みです。掲載のときには、フリマアプリなどで探すための検索キーワードもお渡ししています。

台帳をつくっておけば、掲載に必要な情報はそのまま使えます。準備しておいたことが、そのまま次の一手になります。

よくある質問

台帳をつくる時間がありません。最低限どこから始めればいいですか

高価な楽器から始めてください。全体の数本だけでも、シリアル番号と写真を残しておけば意味があります。あとはパートごとに少しずつ進めれば、いずれ全体に行き渡ります。完璧を目指すより、始めることのほうが大切です。

楽器に学校名を刻印してもよいですか

個体を特定しやすくなる利点はありますが、楽器の価値を下げたり、修理に影響したりすることがあります。実行する前に必ずリペアショップへ相談してください。刻印以外にも、ケースに管理番号を貼るなど、楽器本体を傷つけない方法もあります。

保険は入っておいたほうがいいですか

すでに学校や自治体の制度でカバーされている場合もありますので、まずは現状を確認してください。補償の範囲は契約によって異なり、屋外での事故や持ち帰り中の被害が対象外というケースもあります。事務室や担当部署に問い合わせてみるとよいでしょう。

卒業生が持っている楽器の扱いはどうすればいいですか

返却の時期と方法を明文化しておくことをおすすめします。曖昧なまま年月が経つと、所在が分からなくなります。台帳に貸出中と記録し、返却予定を書いておけば、引き継ぎのときにも確認できます。

なくなったのが備品か私物か分からない場合は

台帳があれば一目で分かります。ない場合は、購入記録や保護者への確認から始めることになります。こうした混乱を避けるためにも、私物も含めて一覧をつくっておくことをおすすめします。届出の際にも、所有者がはっきりしているほうがスムーズです。

相談者

次の練習で、パートごとに分担してみます。

案内役

それがいちばん続く方法です。写真はクラウドに置いて、次の顧問の先生にも引き継げるようにしておいてくださいね。

まとめ

団体の楽器は、使う人が多く、管理者が入れ替わり、本数も多い。この3つが重なって、情報が残りにくい状況が生まれます。

だからこそ、備品台帳にシリアル番号と写真を残しておくことが効きます。鍵の管理や保管場所の見直しも大切ですが、まずは記録から始めてください。パートごとに分担すれば、練習前の10分で進みます。

そして、被害にあったときに誰が何をするかを決めておいてください。届け出るのは団体の側です。長期休暇の前に点検する習慣も、ぜひ取り入れてみてください。

楽器盗難・紛失情報センターでは、学校や楽団の備品も無料で掲載できます。台帳をつくっておけば、そのまま掲載内容としてお使いいただけます。万一のときはご相談ください。

※ 備品の管理方法や保険の内容は、学校や団体によって異なります。実際の運用は所属先の規定に沿ってご確認ください。
※ この記事は一般的な情報をまとめたものであり、法律上の助言を行うものではありません。当センターは警察・行政機関・法律事務所ではありません。個別の事情によって対応が異なる場合がありますので、警察・弁護士等の専門家へご相談ください。