楽器を盗まれたらまずやること|届出から捜索まで

相談者

楽器がなくなってしまいました……。盗まれたのか、どこかに置き忘れたのかも分かりません。何からすればいいでしょうか?

案内役

まずは、最後に楽器を確認した時間と場所を思い出して、分かる範囲で記録しておきましょう。そのうえで警察へ届け出て、シリアル番号や写真など、楽器を特定できる情報を集めていきます。順番に確認していきましょう。

ただし、相手が競売や公の市場、同種の物を販売する商人から善意で買っていた場合は、持ち主が代価を弁償しなければ取り戻せません(同194条)。相手が古物商であれば、その場合でも盗難・遺失から1年以内は弁償なしで回復を求められます(古物営業法20条)。

なお、これらはいずれも「請求することができる」という定めであり、必ず戻ることを保証するものではありません。相手が応じない場合の進め方や、フリマアプリでの購入が「公の市場」にあたるかどうかの判断は、事案によって変わります。

いずれにしても、時間が経つほど不利になります。そして古物商には、不正品の疑いがあると認めたときに警察へ申告する義務があります(古物営業法15条3項)。また警察は、必要と判断した場合に「品触れ」という書面をお店へ出すことがあります(同19条)。

相談者

昨日まであった楽器がないんです。頭が真っ白で、何から手をつけたらいいのか分かりません。

案内役

落ち着いてくださいね。やることは3つだけです。記録する、警察に届ける、シリアル番号を確認する。この順番で進めれば大丈夫ですよ。

結論からお伝えします。楽器がなくなったと気づいたら、その日のうちに警察へ届け出てください。そしてシリアル番号を探してください。この2つができているかどうかで、戻ってくる可能性が大きく変わります。

「どうせ出てこないだろう」と思って届け出をしない方が、実はとても多いのです。ですが盗まれた楽器は、中古楽器店や質屋、フリマアプリなど、さまざまな経路で転売される可能性があります。つまり、どこかで人の目に触れることが考えられます。そのときにあなたの届出があるかどうかが分かれ道になります。

この記事では、気づいた直後にやることを順番に並べました。上から進めていただければ、必要なことは一通り終わります。

まず、記憶が新しいうちに書き留める

ソファの上に置かれたサクソフォン

警察の窓口でも、あとから捜すときも、最初に聞かれるのは「いつ、どこで、どういう状況だったか」です。ところが人の記憶というのは驚くほど早く曖昧になります。半日経つと、最後に見たのが18時だったか19時だったか、思い出せなくなるものです。

スマートフォンのメモで構いません。次のことを書き留めてください。最後に楽器を見た日時、その場所、なくなったと気づいた日時、そのとき一緒にいた人。それから、ケースの見た目です。

意外に思われるかもしれませんが、楽器本体よりもケースのほうが目撃されやすいのです。運んでいる人が抱えているのはケースですから。色や形はもちろん、貼ってあるステッカー、持ち手に結んだストラップ、ネームタグ。こうした特徴が、後になって効いてきます。

ホールや学校、駅の構内など、施設のなかでなくなった場合は、防犯カメラの話も早めに進めてください。カメラの記録は数日から数週間で上書きされることが多く、のんびりしていると消えてしまいます。まずは施設の管理者に相談してみてください。実際に映像を見るには警察を通す必要がある場合がほとんどですが、記録を残しておいてもらうよう頼むことはできます。

警察へ届け出る。盗難なら被害届、置き忘れなら遺失届

ここは飛ばさないでください。この記事のなかでいちばん大事なところです。

盗まれたと考えられる場合は被害届、どこかに置き忘れた可能性が高い場合は遺失届になります。どちらも最寄りの警察署か交番で受け付けています。判断がつかないときは、その旨をそのまま伝えれば窓口で整理してもらえますので、迷って足が止まるほうがもったいないです。

駅や商業施設、ホールなどで置き忘れた場合は、その施設の遺失物窓口にも連絡してください。施設で保管されたまま警察に届いていない、ということが実際によくあります。両方に当たっておくのが確実です。

持っていくとよいもの

身分証明書、購入時の領収書や保証書、シリアル番号が分かるもの、楽器やケースの写真、修理に出したときの伝票。このあたりが揃っていると話が早く進みます。印鑑を求められることもありますので、あれば持って行ってください。

とはいえ、全部揃っていなくても届け出はできます。手ぶらで行っても受け付けてもらえますので、書類探しに何日もかけるくらいなら、先に届け出てから追加で提出するほうが賢明です。

受理番号は必ず控える

届け出た際に、受理番号や届出の控えを教えてもらえることがあります。あとから警察に問い合わせるときや、保険の手続きで求められることがありますので、案内があれば控えておいてください。呼び方や運用は警察署によって異なる場合がありますので、窓口で確認しておくと安心です。担当してくださった方の所属と名前も一緒にメモしておくと、後日連絡するときにスムーズです。

遺失届は、早く出すほど有利になります

拾われた物は、警察署長が公告を行います。その公告の後3か月以内に持ち主が分からないときは、拾った方が所有権を取得できることになっています。ただし、その方が2か月以内に引き取らなければ所有権は失われ、都道府県のものになります。施設の中で拾われた場合は、施設側の権利という別の扱いもあります。

遺失届が出ていれば、届いた拾得物と照らし合わせてもらえます。逆に届出がないと、たとえあなたの楽器が警察に届いていても、誰のものか分からないまま時間だけが過ぎていきます。あきらめる前に、まず窓口へ足を運んでください。

自分の楽器だと示せる材料を集める

木管楽器のキイ部分の接写。個体ごとの傷や摩耗が分かる

楽器が見つかったとき、最後に問われるのは「それが本当にあなたのものか」です。同じ型番の楽器は世の中に何千本とあります。個体を特定できる情報がなければ、目の前にあっても取り戻せません。

シリアル番号がいちばん強い

中古品を扱うお店には、買い取りのときに相手を確認して記録を残す義務があり、その記録にはシリアル番号も含まれます。警察が照会する際にも手がかりになります。手元の書類、ケースに入れっぱなしの保証書、昔撮った写真、リペアショップの伝票。心当たりのある場所を片っ端から探してみてください。

楽器店で買った場合は、お店に購入履歴が残っていることがあります。問い合わせればシリアル番号を教えてもらえる可能性がありますので、これも試す価値があります。

番号が分からなくても、あきらめないでください

シリアル番号が分からない場合でも、個体を特定する手がかりはあります。上の写真のように、使い込んだ楽器のキイまわりには、その楽器だけの傷や摩耗が残っているものです。

たとえば「第2抜差管の付け根に浅い凹みがある」「ベルの内側に小さな当て傷がある」といった具合に、場所と状態をできるだけ具体的に書き出してください。「傷あり」だけでは他の楽器と区別がつきませんが、位置まで書けば決め手になります。

名前や記号の刻印、マウスピースやストラップの交換歴、ラッカーか銀メッキかといった仕上げの違い、ケースの内装の色。こうした情報も並べておくと、照合できる材料が増えます。

それから、合奏やレッスンの写真を見返してみてください。演奏中のスナップに楽器が写り込んでいることがあります。何気ない一枚が、所有を示す資料になることは珍しくありません。

周囲に知らせて、保険も確認する

所属している楽団や吹奏楽部、学校、レッスンの先生、よく行く楽器店やリペアショップ。思いつく範囲に伝えておいてください。音楽をやっている人のつながりは、思っているより狭く、そして情報が回るのが早いです。

とくに近隣の中古楽器店とリペアショップには、シリアル番号と特徴を伝えておく価値があります。買い取りや修理で持ち込まれたときに気づいてもらえる可能性があるからです。中古楽器を扱うお店の間には、盗難情報を共有する仕組みもあります。

それから、見落とされがちなのが保険です。楽器保険に入っていれば当然として、火災保険の家財補償で自宅からの盗難がカバーされることがあります。その楽器をクレジットカードで買っていれば、カードに付帯する動産保険の対象になっている場合もあります。学校や楽団が加入している保険が使えることもあります。

補償の有無や条件は、保険会社や契約内容、付帯している特約によって異なります。警察への届出や受理番号を求められることがありますので、加入している保険会社や代理店へ早めにご確認ください。請求には期限が定められている場合もあります。

相談者

メルカリを毎日見ているんですが、正直しんどくて。いつまで続ければいいんでしょうか。

案内役

毎日見に行くのはやめましょう。検索条件を保存して、新着通知が届くようにしてください。楽器は数か月後に出てくることもありますから、続けられる形にするのが大切です。

中古市場を見張る仕組みをつくる

楽器店の店頭に並べられたサクソフォン

盗まれた楽器は、フリマアプリやオークション、中古楽器店に流れることがあります。ここで知っておいていただきたいのは、すぐに出品されるとは限らないという点です。ほとぼりが冷めるのを待って、数か月後、ときには数年後に現れることもあります。

ですから、気合いを入れて毎日見張るやり方は続きません。通知が自動で届くようにしておいて、あとは普段どおりの生活に戻る。これが現実的です。

メルカリ、ヤフオク、ラクマ、ジモティーといったフリマ・オークションのサービスには、検索条件を保存する機能や新着を知らせる機能があります。キーワードを登録しておけば、条件に合う出品があったときに通知が届きます。中古楽器店の在庫ページや、質屋のオンライン在庫も見ておく先の候補です。

キーワードは書き方を変えて何通りも登録する

ここが差の出るところです。出品する側が正式名称で書いてくれるとは限りません。ひとつの楽器につき、5通りから8通りくらいの書き方を登録しておいてください。

たとえばBach Stradivarius 180ML37というトランペットなら、こうなります。「Bach 180ML37」と「バック 180ML37」で英字とカタカナの両方。「180ML37」と「180ML」で枝番を落とした形。それから「ストラディバリウス トランペット」という通称、「Vincent Bach」「ヴィンセントバック」という正式な社名。ハイフンのあるなしも変えておくと、取りこぼしが減ります。

面倒に感じられるかもしれませんが、ここを丁寧にやっておくと、あとは通知を待つだけになります。

見つけたとき、絶対にしてはいけないこと

自分の楽器らしい出品を見つけると、すぐに問い合わせたくなります。気持ちはよく分かるのですが、直接連絡するのはやめてください。ほぼ確実に事態が悪くなります。

まず、出品が取り下げられます。相手は警戒して姿を消し、その楽器の行方が分からなくなってしまいます。せっかく見つけた手がかりが消えるわけです。

それから、出品している人が盗んだ本人とは限りません。事情を知らずに買った人が、不要になって売りに出しているだけかもしれない。そこへ「これは盗品です」と連絡してしまうと、無関係な方を犯人扱いすることになります。相手と直接会うような展開になれば、身の危険もあります。

ではどうするか。出品ページのURLを控えて、スクリーンショットを撮ってください。ページはすぐ消える可能性がありますので、これが先です。写真も保存しておきます。傷や刻印が写っていれば、それだけで強い証拠になります。そのうえで、受理番号を添えて警察に連絡してください。

買い戻そうとするのも避けてください。盗んだ側に利益を渡すことになりますし、お金を払って手に入れてしまうと、その後の手続きがかえって複雑になります。

取り戻せる期限を知っておく

床に置かれたトロンボーン

あまり知られていないのですが、盗まれた品物を取り戻せる期間は法律で決まっています。ここを知っているかどうかで、動き方が変わります。

期間 内容
公告後3か月 この期間内に持ち主が分からないと、拾った方が所有権を取得できます(民法240条)
2年 盗品・遺失物について、持ち主が回復を請求できる期間(民法193条)
1年 相手が古物商で、公の市場や同種の営業者から善意で譲り受けていた場合に、弁償なしで回復を求められる期間(古物営業法20条)

盗品や遺失物については、持ち主が盗難・遺失の時から2年間、いま持っている人に対して回復を請求できると定められています(民法193条)。相手が中古楽器店であっても、事情を知らずに買った個人であっても、この点は変わりません。

ただし、相手が競売や公の市場、同種の物を販売する商人から善意で買っていた場合は、持ち主が代価を弁償しなければ取り戻せません(同194条)。相手が古物商であれば、その場合でも盗難・遺失から1年以内は弁償なしで回復を求められます(古物営業法20条)。

なお、これらはいずれも「請求することができる」という定めであり、必ず戻ることを保証するものではありません。相手が応じない場合の進め方や、フリマアプリでの購入が「公の市場」にあたるかどうかの判断は、事案によって変わります。

いずれにしても、時間が経つほど不利になります。そして古物商には、不正品の疑いがあると認めたときに警察へ申告する義務があります(古物営業法15条3項)。また警察は、必要と判断した場合に「品触れ」という書面をお店へ出すことがあります(同19条)。

ただし、届け出たシリアル番号が全国のお店へ自動で共有される仕組みがあるわけではありません。それでも番号を届け出ておくことで、照会や申告の場面で結びつく可能性が生まれます。届け出を急ぐ理由が、ここにもあります。

なお、ここに書いたのは一般的な目安です。実際の判断は状況によって変わりますので、個別の事情については警察や専門家にご相談ください。

情報を広く公開して、見かけた人からの連絡を待つ

ここまでは、ご自身で動く方法をお伝えしてきました。ただ、ひとりで探せる範囲には限界があります。全国のフリマアプリと中古楽器店を、たったひとりで見張り続けるのは無理があります。

そこで有効なのが、楽器の情報を公開して、見かけた人から連絡をもらえるようにしておくことです。楽器を扱う人は、街の楽器店にも、学校にも、楽団にもいます。その人たちの目を借りるという考え方です。

当センターは、盗難や紛失にあった楽器の情報を掲載し、発見につなげるためのサイトです。掲載は無料でご利用いただけます。

掲載していただくと、楽器の特徴やシリアル番号が公開され、見かけた方が情報を寄せられる状態になります。掲載のタイミングで、フリマ・オークション用の検索キーワードと検索リンクもお送りしています。先ほどお伝えした表記ゆれを含んだものを、こちらで用意してお渡しする形です。情報が寄せられた場合はメールでお知らせします。そのとき、情報をくださった方の氏名や連絡先は掲載者にはお伝えしませんので、その点はご安心ください。

掲載は警察への届出の代わりにはなりません。あくまで届出と並行してお使いいただくものです。当センターは捜査機関ではなく、掲載された情報が盗難品であることを保証するものでもありません。

よくある質問

シリアル番号が分からなくても届け出はできますか

できます。番号が分からないからと届け出を先延ばしにするほうが、はるかに不利になります。楽器の種類、メーカー、色や仕上げ、傷の位置、ケースの特徴など、分かる範囲を伝えてください。あとから番号が判明したら、追加で届け出ることもできます。楽器店に購入履歴が残っている場合もありますので、問い合わせてみると分かることがあります。

学校や楽団の備品を紛失した場合はどうすればいいですか

まず顧問の先生や団の責任者に報告してください。届け出をするのは所有者、つまり学校や楽団の側になります。個人で先に動くより、話を通してから進めたほうが手続きが早く終わります。団体で加入している保険が使えることもありますので、あわせて確認してみてください。

フリマアプリに似た楽器が出ていました。運営に通報すべきですか

通報自体は選択肢のひとつですが、その前にURLとスクリーンショットを必ず控えてください。通報によって出品が削除されると、証拠ごと消えてしまうことがあります。順番としては、記録を取る、警察に連絡する、そのうえで警察の指示に従うのが安全です。判断に迷う状況も多いので、まずは受理番号を持って相談してみてください。

何年も前に盗まれた楽器でも掲載できますか

掲載できます。楽器は長く使われるものですから、何年も経ってから中古市場に現れることがあります。ただし無償で返還を求められる期間には限りがありますので、実際に見つかった際の進め方は状況によって変わってきます。まずは情報を公開しておくことをおすすめします。

掲載すると個人情報が公開されてしまいませんか

公開されるのは楽器に関する情報だけです。お名前、メールアドレス、電話番号がサイトに出ることはありません。情報が寄せられた際の連絡にのみ使用します。ただし、状況説明の欄にご自身で個人情報を書き込まれると公開対象になりますので、入力時にはご注意ください。

相談者

やることが整理できました。まずは警察に行ってきます。

案内役

それがいちばんです。受理番号を控えるのをお忘れなく。戻ってくることを願っています。

まとめ

楽器がなくなったと気づいたら、記憶が新しいうちに状況を書き留めて、その日のうちに警察へ届け出てください。盗難なら被害届、置き忘れなら遺失届です。受理番号を控えることも忘れないでください。

そのうえでシリアル番号を探し、傷や刻印など個体を特定できる情報をまとめておきます。周囲の楽器店や楽団に知らせ、保険の確認をして、フリマアプリには検索条件を登録しておく。ここまでできれば、やれることはほぼ尽くしています。

そして最後に、探してくれる目を増やしてください。楽器盗難・紛失情報センターでは、盗難や紛失にあった楽器の情報を無料で掲載しています。掲載時にはフリマ・オークション用の検索キーワードもお渡ししていますので、ご自身で探す手間もいくらか軽くなるはずです。情報が寄せられた際は、提供者の連絡先を伏せたうえでお知らせします。ひとりで抱え込まず、まずはご相談ください。

※ この記事は一般的な情報をまとめたものであり、法律上の助言を行うものではありません。当センターは警察・行政機関・法律事務所ではありません。個別の事情によって対応が異なる場合がありますので、警察・弁護士等の専門家へご相談ください。